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フィリピン変異株の特徴は?イギリス、南アフリカ、ブラジル変異株の特徴や国内での状況は?変異株Q&A

変異株の種類とその特徴(筆者作成)

世界中で新型コロナウイルスの変異株が拡大しており、日本国内でも徐々に増加しています。

3月12日に報告されたフィリピン変異株など、現時点での変異株のそれぞれの状況についてまとめました。

Q. フィリピン変異株の特徴は?

A. 不明な部分が多いですが、感染力が強く、ワクチン効果が低下する可能性があります。

3月12日、国立感染症研究所は2月25日にフィリピンから成田空港に入国した60代男性から変異株が検出されたと発表しました。

この変異株は、イギリス変異株(VOC 202012/01)、南アフリカ変異株(501Y.V2)、ブラジル変異株(P.1)が持つ感染力が増すと言われるN501Y変異、そして南アフリカ変異株、ブラジル変異株が持つ免疫逃避と呼ばれるE484K変異を持っていることから、同様の特徴を持つことが推定されます。

フィリピンでの新規新型コロナ感染者数(Worldometerより)
フィリピンでの新規新型コロナ感染者数(Worldometerより)

 

フィリピンからも同様の変異株の報告がGISAIDというウイルスの情報データベースに登録されていますが、現時点でフィリピン国内でどれくらいこの変異株が広がっているかは不明です。

また、現在フィリピンは第2波の流行を迎えていますが、この変異株がどれくらい流行に寄与しているのかも分かっていません。

Q. 国内での変異株の拡大の状況は?

A. 蔓延している状況ではありませんが、徐々に拡大してきています。

日本国内での変異株の検出状況(井上貴史氏作成 https://twitter.com/takainou_0907/status/1370368527102738434?s=20)
日本国内での変異株の検出状況(井上貴史氏作成 https://twitter.com/takainou_0907/status/1370368527102738434?s=20)

 

3月12日時点で、日本国内では346例から変異株が検出されています。

国内で変異株が初めて報告された2020年12月25日以降、徐々に増加傾向にあります。

これまでのところ、イギリス変異株が大多数を占めていますが、南アフリカ変異株、ブラジル変異株も散発的に報告されています。

3月12日にはフィリピン変異株も報告されました。

 

都道府県別の変異株確認数(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(変異株)の患者等の発生について」3月10日より)
都道府県別の変異株確認数(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(変異株)の患者等の発生について」3月10日より)

 

地域としても拡大しており、これまでに報告されていなかった都道府県にも変異株検出例が報告されるようになってきています。

変異株が多く検出されている都道府県は、大阪、埼玉、兵庫、新潟などです。

 

神戸市内の変異株確認状況(市定例会見2021年3月11日発表資料より)
神戸市内の変異株確認状況(市定例会見2021年3月11日発表資料より)

 

特に兵庫県の神戸市では、1月末から徐々に新規感染者のうち50〜70%の事例で変異株かどうかの検査を行っていますが、この変異株検査が行われた事例の中で実際に変異株であった割合が徐々に増加してきています。

2/26〜3/4に報告された新型コロナ患者97例のうち、67例で変異株かどうかの検査が行われており、このうち26例(38.8%)が変異株であったと報告しています。

 

Q. 変異株の何が問題なの?

A. 従来のウイルスよりも感染者が増えやすく、またワクチン効果の低下が懸念される変異株も出現しています。

変異株の問題には大きく「感染力の増加」と「免疫逃避」が挙げられます。

従来のウイルスと、感染力が強くなった変異株との感染者拡大のスピードの違い(筆者作成)
従来のウイルスと、感染力が強くなった変異株との感染者拡大のスピードの違い(筆者作成)

 

例えば仮に、変異株の感染力が50%強くなったと仮定し、従来のウイルスの基本再生産数を2とし、変異株の基本再生産数を3とした場合、従来のウイルスは潜伏期5日ごとに2倍ずつに増えていきます(※正確には新型コロナでは発症前にも感染性があるのでserial intervalはもう少し短くなります)。

一方、感染力が増した変異株では、5日ごとに3倍ずつ増えていきます。

20日後には従来のウイルスの感染者は16倍ですが、変異株では81倍になります。

このように、従来のウイルスの中に変異株が流入し何も対策せずにいれば、変異株が主流に置き換わっていくと考えられ、またこれまで以上に感染者が増えやすくなります。

重症度は変わらないとしても、感染者が増えれば自ずと重症者も増えます。

 

免疫逃避を持つ変異ウイルスでは中和抗体が結合しにくくなり感染が成立しやすくなる(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の武内寛明先生のプレスリリースより)
免疫逃避を持つ変異ウイルスでは中和抗体が結合しにくくなり感染が成立しやすくなる(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の武内寛明先生のプレスリリースより)

 

「免疫逃避」というのは、ヒトの免疫から逃れるためのウイルス変異です。

この変異が起こることによって、従来のウイルスに感染したヒトが作ったウイルスに対する抗体や、ワクチン接種によって作られる抗体が効きにくくなると考えられています。

これにより、過去に新型コロナウイルスに感染した人も、免疫逃避の変異を持つ変異株には感染することや、ワクチンの効果が低下することが懸念されています。

Q. イギリス変異株の特徴は?

A. 従来のウイルスよりも感染力が最大40%増加し、また重症化もしやすいようです。

イギリス変異株が検出されている国(WHO Weekly Epidemiological Update Coronavirus disease 2019. 9 March 2021)
イギリス変異株が検出されている国(WHO Weekly Epidemiological Update Coronavirus disease 2019. 9 March 2021)

 

イギリス変異株(VOC202012/01、B.1.1.7、20I/501Y.V1)は、2020年後半にイギリス南東部で初めて確認されましたが、現在は世界中に拡大しており3月9日時点で111カ国で報告されています。

当初、イギリスでロックダウンが行われる中で、この変異株が従来株よりも最大75%感染力が強いのではないかと推定されていました。

イギリスの公衆衛生局の報告書では、イギリス変異株に感染した人の接触者37,585人のうち12.9%に二次感染が認められたのに対し、従来のウイルスに感染した人の接触者24,239人のうち9.7%に二次感染が認められたことから、変異株の感染力の増加は25~40%であると推定されています。

イギリス変異株のウイルスでは「N501Y」というスパイク蛋白(ウイルス表面の突起物)に変異が起こっていますが、これにより感染性が増加すると考えられています。

感染性の増加の原因としては、感染者のウイルス量が増加すること、ウイルス排出期間が長くなること、などが推定されています。

 

また、重症度についても高くなることが懸念されています。

イギリスで従来のウイルスに感染した人と、イギリス変異株に感染した人とを比較したところ、イギリス変異株に感染した人の方が64%死亡率が高くなっていたと報告されています。

Q. 南アフリカ変異株の特徴は?

A. 従来のウイルスよりも50%感染しやすくなり、ワクチンの有効性も低下してしまう可能性があります

南アフリカ変異株が検出されている国(WHO Weekly Epidemiological Update Coronavirus disease 2019. 9 March 2021)
南アフリカ変異株が検出されている国(WHO Weekly Epidemiological Update Coronavirus disease 2019. 9 March 2021)

 

南アフリカ変異株(501Y.V2、B.1.351)は2020年後半に南アフリカで初めて確認されましたが、現在は世界中に拡大しており3月9日時点で58カ国で報告されています。

南アフリカ変異株にも、イギリス変異株と同様に「N501Y」という感染力が強くなると考えられている変異があり、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の解析では、南アフリカ変異株は従来のウイルスよりも50%感染性が高いと報告されています。

 

また南アフリカ変異株は「免疫逃避」と呼ばれる変異を持っており、過去の感染によってできた免疫やワクチン接種によってできた免疫から逃れる可能性が指摘されています。

ファイザー社のワクチン接種を行った人から血清を採取し、南アフリカ変異株を含めた様々なウイルスに対する中和活性を検証したところ、他のウイルスに比べて南アフリカ変異株に対する中和活性が低くなっていたことが報告されています。

またNovavax社の新型コロナワクチンの第3相試験の中間解析でも、従来の新型コロナウイルスには95.6%の効果を示した一方で、南アフリカ変異株には60%の効果であったとのことです。

ワクチン効果60%というのは決して低いものではありませんが、従来の新型コロナウイルスに対する効果よりも低下していることは憂慮すべきことです。

 

Q. ブラジル変異株の特徴は?

A. 感染力の増加や再感染リスクの増加などが懸念されています。

ブラジル変異株が検出されている国(WHO Weekly Epidemiological Update Coronavirus disease 2019. 9 March 2021)
ブラジル変異株が検出されている国(WHO Weekly Epidemiological Update Coronavirus disease 2019. 9 March 2021)

 

ブラジル変異株(P1、20J/501Y.V3)は2021年1月に日本で初めて確認されました(CDCの機関誌Emerging Infectious Diseases誌にKutsunaらの報告が掲載されています)。

その後、ブラジルのマナウスでこの変異株が流行していたことが明らかとなり、現在は世界中に拡大しており3月9日時点で32カ国で報告されています。

 

ブラジル変異株も「免疫逃避」と呼ばれる変異を持っており、過去の感染によってできた免疫から逃れる可能性が指摘されています。

このブラジル変異株の発端となったマナウスでは、10月の時点で住民の76%が新型コロナに感染したという推計が発表されていました。

この76%という数値はその地域での流行を防ぐための理論上の集団免疫を達成していたと考えられていましたが、現在そのマナウスで2回目の大規模な流行が起こっており、この多くが再感染例であると考えられていることから、従来のウイルスで作られた免疫が、このブラジル変異株には25〜61%効きにくくなっている可能性が指摘されています。

 

また、感染力についても1.4-2.2高くなることが推計されているだけでなく、死亡率も1.1-1.8倍高くなると言われていますが、これはマナウスの医療体制の逼迫などが関連している可能性があり、ブラジル変異株の影響とは断定できません。

Q. 他に問題となる変異株は?

A. 起源不明の変異株が国内で見つかっています。

感染力が強くなるとされる「N501Y変異」はないものの、免疫逃避と呼ばれる「E484K変異」を有する変異株が国内で検出されています。

この変異株は海外から移入したと考えられていますが、起源は分かっていません。

3月3日時点で関東を中心に全国で394件検出されています。

 

Q. 変異株の拡大を防ぐためには?

A. 早期検出、隔離、接触者調査が重要です。個々人レベルでできることは変わりません。

前述の通り、日本国内における変異株の検出事例は増加してきています。

変異株が国内で拡大していけば、新型コロナの収束はますます遠くなってしまいます。

現時点で日本国内で南アフリカ変異株、ブラジル変異株が拡大するのを防ぐためには、

・変異株の症例の早期検出と、厳格な隔離、接触者調査

・海外からの帰国者の検査体制の強化(全症例で遺伝子配列解析が実施されています)

・外国人の入国規制強化(現在政府は2020年12月28日から外国人の新規入国を中止しています)

などが必要と考えられます。

国内での変異株スクリーニング体制(新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応. 厚生労働省資料より)
国内での変異株スクリーニング体制(新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応. 厚生労働省資料より)

 

現在、国内では新型コロナウイルスが検出された症例のうち5〜10%程度を変異株かどうかを調べるPCR検査を行い、陽性だった場合にゲノム解析が行われています。

また神戸市のように変異株が確認された自治体ではこの割合を上げてスクリーニング検査が行われています。

 

また私たち一人ひとりができることは、感染対策の徹底です。

・できる限り外出を控える

・屋内ではマスクを装着する

・3密を避ける

・こまめに手洗いをする

といった基本的な感染対策をより一層遵守するようにしましょう。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210313-00227202/

 

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